角川GHDのMF買収と角川グループにおけるライトノベルレーベルの序列?

今日Twitterのタイムラインで話題になった角川グループホールディングスによるメディアファクトリー買収について調べてみた。

株式会社メディアファクトリーの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

株式会社角川グループホールディングス(本社:東京都千代田区代表取締役社長:佐藤辰男、以下角川グループホールディングス)は、本日開催の取締役会で、株式会社メディアファクトリー(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:芳原世幸、以下メディアファクトリー)の発行済株式の100%を取得することを決議し、メディアファクトリーの株主である株式会社リクルート(本社:東京都千代田区代表取締役社長 兼CEO:柏木 斉、以下リクルート)との間で株式譲渡契約を締結しましたのでお知らせします。

話題の切り口のひとつとして
角川GHDが傘下の出版社に多くのライトノベルレーベルを擁しておりほシェア上もかなりを占めていると思われること。MF社の取得により、その傾向がさらに強まることからだろう

出版部数ベースのシェア的な分析も「情報通」の方によってされると思うが、このエントリでは公開されている経営指標から簡単に見てみる。

角川、メディアファクトリーを子会社化(ITmedia)

 この報道によるとメディアファクトリーの2011年度売上は189億円、角川GHDの株式取得額は80億円。ただし取得後に角川がリクルートに50億円を配当するため実質的な取得額は130億円と考えた方が妥当だろう。

 リクルートの決算報告書からメディアファクトリーを含む「その他領域」の営業収益およびは下記のとおり(単位:百万円)

MF社売上高 リ社連結営業収益
2010.3 18,998 1,083,932
2011.3 20,658 793,329
2012.3 18,926 752,688

 リ社全体の業績はここ数年下降しており、その中でMF社の収益は決して小さくないのだが、リ社の決算報告書ではメディアファクトリーを含むエンターテインメントコンテンツ・パブリッシング事業は「その他の事業領域」に位置づけされている。本業と位置づけられる「人材採用領域」や「斡旋領域」、「派遣領域」などと比べるとシナジーを生み出しにくいと判断され今回の株式売却となったのではないか。

 一方の角川GHD、こちらは有価証券報告書から出版事業/書籍関連(雑誌・広告事業を除く)とG全体の売上高である。

セグメント売上 角川GHD売上高
2010.3 71,158 141,611
2011.3 73,476 135,922
2012.3 59,043 140,055

 MFの売上高には雑誌「ダヴィンチ」などの雑誌・広告事業やDVD等の電子コンテンツも含まれるため単純に足し算とはならないが、仮にまるごと出版事業にプラスとすると30パーセント増となる。角川グループ事業全体でも10〜15パーセント程度の増が期待でき、かなり「安い買い物」ではなかったかと思う。

 ところで、角川GHD有価証券報告書を見ると毎年どのような書籍が経営=売上に貢献したかがそれとなく見える。有価証券報告書は株主に対する”結果”報告の意味があるため、もちろん具体的な数字は見えないものの広告の派手さといった”期待値”などよりも正確な情報かもしれない。以下〈ライトノベル〉項を抜き出してみる、順序もそのまま( )内はレーベル名。

2010.3 とらドラ!』(電撃)、『とある魔術の禁書目録』(電撃)、『乃木坂春香の秘密』(電撃)、『鋼殻のレギオス』(富士見)、『生徒会の一存』(富士見)、『文学少女』(ファミ通
2011.3 とある魔術の禁書目録』(電撃)、『デュラララ』(電撃)、『生徒会の一存』(富士見)、『バカとテストと召喚獣』(ファミ通)、『文学少女』(ファミ通
2012.3 とある魔術の禁書目録』(電撃)、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃)、『バカとテストと召喚獣』(ファミ通)、『これはゾンビですか?』(富士見)、『伝説の勇者の伝説』(富士見)

 「本家」角川書店のタイトルが記載されていないは意図的なものなのか実際”数字”的なものなのか気になるが、これを見るとこの数年『禁書目録』『バカテス』の2タイトルの存在が角川グループのライトノベルにおいてどれほどかよくわかる。また、今年度からエンターブレイン富士見書房の順序が変わっているのも興味深い。MF文庫Jという有力レーベルが加わることで、これがどう変わるかも見守りたい。

【訂正】
 リクルート社の営業収益が誤っていたので訂正しました