9S〈ナインエス〉(17/50)
- 作者: 葉山透,山本ヤマト
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2003/09/01
- メディア: 文庫
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350ページを超えるアクション大作であるが、ありきたりな展開に後半以降はほとんど印象に残らない。
海上に浮かぶ直径525メートルの球形の研究施設が犯罪者集団に乗っ取られ同施設に居住する民間人千名あまりが囚われの身となる。完全な閉鎖環境である同施設を管理するスーパーコンピュータLAFIを狙っての犯行と思われるが、唯一脱出に成功した十七歳の少年と驚異的な能力をもった少女が犯人に挑む。
プロットは映画でよく使われる占拠もの*1であるが、続刊以降の広がりを意識してかキャラクターや背景設定にさまざまな要素を加えている。これが、料理の点数をいろいろ増やしたあまりかえって没個性で魅力がなくなってしまった温泉旅館の夕食のごとき効果*2をもたらしてしまった…。
多くの要素をつぎこんだあまりプロットは凡庸なものにならざるを得ず、90年代に乱造されたハリウッドアクションムービーのごときヤマ場の連続*3が繰り返される。
ぼくがラノベに求めるのは、他の媒体には無いユニークな発想と「このあと一体どうなるんだ?」とワクワクとする体験であり、先行するさまざまな作品からいろいろな要素を借りてきて詰め込んだ本作は「統合」という点での技巧は高いかもしれないが、そこにおもしろさを見出すことはできなかったというのが正直なところ。
自身がほとんど楽しめなかったのでオトナにお薦めすることは控えるが、かつて隆盛を誇った門田泰明『黒豹』シリーズなどの和製アクション小説の進化系ともいえなくもないので、そういう傾向の作品を読む方は相性が合うかもしれない。一方、ディテールにこだわる方にはお薦めできない。読んでいる間、施設突入前の特殊部隊が行うブリーフィングのアバウトさや、人質がとられているのに報道管制があまりに完璧なことの不自然さ、コンピュータの何でもありの扱いが気になって仕方が無かった。
作者は男女のトレジャーハンターを主人公にしたデビュー作『金の瞳の女神』で第2回富士見ヤングミステリー大賞の最終選考に選ばれている。レーベルを変え新テーマを扱った本シリーズも現在7作目まで発表されている人気作であることを付記しておきます。