タマラセ(26/50)

本作は第9回スニーカー大賞優秀賞を受賞し、2006年4月に6巻で完結している。
東北地方は三陸海岸に近い架空の小都市「平磐市」を舞台にタマラセ(魂裸醒)と呼ばれる特殊能力をもった高校生どうしの戦いを描く。

タマラセという超常能力がどのような原理にもとづく力で能力の保有者はどのように生活してきたかといったいわば「特殊能力のエコシステムと社会システム」が作品を通じて説明されており軽めの作品にそれなりのもっともらしさを与えている。お話のプロット直接関係のない説明(実際に作中の登場人物が主人公に「説明」をするケースが多い)はしばしばマイナスになってしまうものだが、設定の周到さと主人公のボケツッコミ(作者は東北出身の関西在住であるそうな)の語り口のせいか気にならない。

1巻だけを読んでの印象であるが、この作品だと続きの展開は苦しいかもしれない。設定についての基礎的な部分はほぼ語り尽くされているので、ミステリー的展開は「新設定」*1を出さないと難しい。あとは(少年漫画的に)キャラクターを動かすことでその魅力で引っ張るという方法があるが、実際に6巻まで続くものか…ちょっと気になる。

本作、ちょっと気になるミスはあるものの基本的に軽く読める(少なくともこれまでとりあげたスニーカーでは一番速く読むことができた)が、オトナに是非にとはお薦めしない。この手の作品は少年漫画にいくらでもあり、敢えてライトノベルという形式で読む必要性は強く感じられなかったからである。

挿絵は日向悠二。『吉永さん家のガーゴイル』(ファミ通文庫、未読)や『蘭堂家の人々』(スーパーダッシュ、同)も描いている売れっ子さんのよう。本作の絵はどちらかというとパースと陰影が特徴のトンがった感じで、好みは兎も角印象に残る。

*1:一番簡単なのは「新たな強い敵の登場」だろう