マーゴ・ラナガン『ブラック・ジュース』(奇想コレクション)

ブラックジュース (奇想コレクション)

ブラックジュース (奇想コレクション)

オーストラリアの作家マーゴ・ラナガン(Margo Lanagan)の現時点では日本で唯一の短篇集。
もともとヤングアダルト(YA)のカテゴリで出版されたとのこと。最近は結構紹介されているようだが、YA=海外版ライトノベルと考えるとちょっと戸惑うかも。
作品のもつ雰囲気を一言でいうとちょっとシニカルなファンタジー。上のツイートでも書いたとおり最初僕は吉田戦車の作品を連想してしまったが、作中で登場人物が死を迎える描写を描く視点のドライさを考えると、もっとスタイリッシュなインディペンデント系フィルムのような作風と受け取る人もいるかもしれない。

途中まで読んだので紹介*1

沈んでいく姉さんを送る歌

タイトルからして強いインパクトをもつ、松尾たいこ氏描くカバーイラスト*2もこの作品のイメージをよく伝えている。
作品の内容はタイトルそのままであり、結末に至る劇的展開も叙述トリックもないが、そのプロット自体がショッキングというか。

わが旦那様

放蕩の妻を追いかける領主をその召使である語り手の視点で描くこれも謎めいた作品。何か裏があると勘ぐって読むより情景〜中世・近世ヨーロッパでも架空のファンタジー世界でも適当に〜を思い浮かべながら読むのだろう。この領主の妻が評判の悪さに反し、読者になんとも言えない謎めいた魅力を発揮するのはライトノベルゼロの使い魔』等々のツンデレヒロインに通じるものがあるが、結末で語り手の妻が言ったとおりになってほっこりするのも良いかも。

赤鼻の日

よくわからないが、シーンそれぞれに往年のヨーロッパ映画のような雰囲気を感じる。
道化師=エンターテイナーがエリートとしてもてはやされる町を舞台に、過去にワケありそうな主人公と謎の相棒は狙撃テロを続ける。
M-1は昨年終わってしまったが、話術巧みなお笑い芸人がメディアでもてはやされる現代への風刺を感じる。道化師の思わず撃ち殺したくなる邪悪さ(?)というのは万国に通じるものがあるのかな?
登場人物の男二人がただならぬ関係であったかどうかは敢えて触れぬがよかろう。

*1:残りの作品もできるだけ紹介したいが未定

*2:最近は河出文庫で出ているシオドア・スタージョン作品でもよく見かける、小説表紙では藤田新策氏の作品と並んで好きです