(5/50)空ノ鐘の響く惑星で

空ノ鐘の響く惑星で (電撃文庫)

空ノ鐘の響く惑星で (電撃文庫)

直径百メートルの「御柱(ピラー)」と呼ばれる謎の浮遊物体とそれを囲む5つの神殿、そこで産する4種類の「輝石」と呼ばれる物質に支えられた中世風の世界を舞台に展開する大河ファンタジーの第1巻。ちなみに今月発売の12巻で完結している。

主人公は大陸の東側に位置する王国の第四王子であり、本作では異世界からやってきた少女との出会いを中心に描く。主要な登場人物が揃ったところで大事件が起こり、この後の物語で王国と世界の運命を大きく揺るがすことをほのめかして終わる。

プロットはよくある「異世界大河ファンタジー」なのだが、そこは「王道」作品ということで適度な伏線を散らばせながら最後は「続く」となっても気にならならなかった。

設定・キャラクターについて。「空ノ鐘」や「御柱」など世界をめぐる謎、王位継承権を巡る争乱の予感、エリート神官の野望などなど、構成の骨組みは先行する本格ファンタジー作品にも見られるものだが、異世界からやってきた戦闘美少女、幼馴染みで再会するまで男だと思っていた神官、錬金術師兼諜報員のお姉さん、など現代風のポイントはちゃんと押さえている
異世界からの刺客集団もこの手の作品世界では斬新なビジュアルで今後の活躍が期待できる。

気になる点としては異世界観光気分を盛り上げる情景描写、日常描写が弱いかなあというところ。たとえば主人公の「室」が生活の場である居室なのか、いわゆるオフィスなのかイメージしにくかったり、主要な舞台となる神殿や門前町の様子は自然描写も含めてじっくり描いてもよかったのではと感じた。
ただ、ファンタジー世界というのはコンピュータゲームや映像作品などで散々扱われておりイメージが共有されているところもある。潔く簡素化し読者に自由に補完してもらいつつさくさく詠んでもらうのがライトノベルなのかも。
ストーリーテリングについて、登場人物絡みでトリックが2箇所あって驚かされたが、もったいぶったほのめかしや叙述トリックが無いので安心して読める。ぼくは一気に楽しみながら読めました。
ここまで詠んだところパロディーやおふざけが入り込む余地も無いので、まじめな展開を好む正統派ファンタジーファンにも受け入れやすいだろう、ライトノベルに文学との新しい出会いを求める人には無用だがエンターテインメントとしての正統派ファンタジーの最新型を体験したい人にはお薦めの一作。