(4/50)ぼくたちには野菜が足りない

前世紀末に農作物の育成に関係する特殊な能力(「農力」と呼ばれる)を備えた人間が現れた世界。とある片田舎の国立農業高校を舞台に、「農力」は最低ランクだが農業に対する熱意だけは凄い少年と、幼馴染の少女、宇宙からやってきた謎の美少女が織りなす学園ラブコメである。

全編に渡ってボケまくる宇宙人少女は実はある目的で地球にやってきて少年に近づくが、ビジュアル系バンド「ポインセチア」の熱狂的ファンでそれっぽい歌詞の引用で会話とか、主人公の「農力」は鋤などの農機具をキラリと光らせる(この設定は笑った)だけで何かにつけて調子っぱずれの五・七・五を詠んだりとか、ライバルにあたる先輩は天候操作能力という最高レベルの「農力」をもっているが蕎麦の栽培と蕎麦打ちがライフワークで学内に専用の調理室をもっているとか、宇宙人少女の秘密を狙う金髪マッドサイエンティスト少女とか…、「普通人」で狂言回し役である少女を除くと、脇役を含めてツッコミどころ満載なキャラがドタバタするが、その割に今ひとつ盛り上らなかった。

リズムの良い会話文で登場人物各人のユニークさ(「非常識さ」と言っても良い)を強調するのだが、地の文で語られるキャラの心情描写がやけに常識的なせいか際立った個性をセーブする方向にはたらいてしまっている。
もともと8話構成のプロットでそれぞれシンプルにまとまっているのでキャラクターの魅力を減じるとちょっと作品の弱さが目立つ。

というわけで、かなり読むのがつらかった。
何よりも(ぼくのように)キャラクターと場面に感情移入して楽しむ読書方法だと、個性的キャラクタの交わすボケツッコミ会話を楽しむ(ちょうどテレビのバラエティー番組のお笑いを観客的視点で楽しむように)このタイプの作品は合わないのだろう。

というわけで、本作は学園ドタバタラブコメが好きな人、天然少女の電波トークなど好きな人にお薦めとします。
「農業高校を舞台とする学園もの」ということで石川雅之のコミック『もやしもん』のようなウンチクを含んだ濃いストーリーを期待する人は書店で手にとって判断するのが良いかもしれません。