僕らA.I.(12/50)舞台構築の巧妙さ

僕らA.I. (富士見ミステリー文庫)

僕らA.I. (富士見ミステリー文庫)

人口減少で人影もまばらな人工島のマンション、テトラポットから見える未来的な廃工場や鉄橋…こうした風景がみごとに作品世界にハマっている。
プロットに必要のない描写は省かれている、主人公は高校生だがよくある学校生活の描写は省かれ、名前の無いクラスメートとのメールのやりとりでほのめかされる程度である。
主人公の姉が勤める職場や病院のシーンも決して会話が描写されることなく地の文で描写されるのみである。基本的に会話は主人公とその家族である姉と妹、それにお話のカギを握るもう一人の登場人物の4人の会話で展開する。
余計なものが無い分、わずか200ページあまりで強固な作品世界を構築することが可能となる。まるでポリゴンの箱庭の中で展開するアドベンチャーゲームや断片的なシーンで展開される演劇を想起させる。

この作品の謎を構成するSF風の設定は作品の中である登場人物によって語られるが、非常にあっさりとしてしている。よく考えるといろいろ無理のある設定とも言え、掘り下げれば掘り下げるほどボロが出てしまうので、この方法は巧いと感じる。

著者は別名義でTRPGリプレイ小説やSFを数作発表しているそうだ、どうも新人賞をとった某作品は文体が独特だったようで評判は半々といったところ。本作の「設定解説のさりげなさ」と「場面設定の巧妙さ」はまさにそんな作品の経験が活きているのかもしれない*1

不覚にもあとがきにホロリとしてしまった、泣けます。

*1:……ところで表題の「A.I.」って……聞いちゃダメ?