平井骸惚此中ニ有リ(11/50) ファンタジー世界としての大正十二年

本作は第3回富士見ヤングミステリー大賞の大賞受賞作で2005年8月に5巻で完結している。

過去の時代を舞台にした〈伝奇もの〉はありがちだが、本作は激動の明治・昭和に挟まれたエアポケットのような時代を舞台にしたミステリー作品。超自然的な要素は無く、一方謎解きもそれほど重きがおかれていない(あっさり作家の先生が謎解きしてしまう)。
お調子者の主人公、平井家の人々、男装の女編集者などキャラクターの魅力と会話を楽しむ作品で、殺人事件を扱っているものの読後感も爽やか。

舞台となった大正十二年というのは江戸川乱歩がデビュー作『二銭銅貨』を発表した年だそうで、作中で探偵・推理小説の黎明期の様子が登場人物によって語られる。本作のテーマは「事件の謎解き」よりもむしろ犯罪事件がひとつの「物語」として認知されつつあった時代の空気を描こうとしているようだが、このあたりは本作ではやや中途半端で続刊に期待している。

ちなみに、主人公が書生として下宿する探偵作家の娘さん(女学生)がまさにツンデレツンデレ好きの方には迷わず一読をお薦めします。あ、主人公(19)を「兄さま」と慕う妹さん(10)もいますので「妹好き」の方にも。