岩田洋季『灰色のアイリス』(43/50)

ああ、やっぱり!冒頭から薄々そんな予感がしていたのですよ。

灰色のアイリス (電撃文庫 (0687))

灰色のアイリス (電撃文庫 (0687))

本作は『護くんに女神の祝福を!』シリーズ(現在9巻まで)が好評の岩田洋季(いわた・ひろき)のデビュー作です。本についていた帯によると発表当時「18歳の天才新人作家」だったそうです。
異世界の存在を呼び出し使役する異空眼の保持者である主人公は失踪した姉を求めて4年ぶりに東京に戻ってきた、姉の娘である灰色の右目を持つ少女とともに。
かなり読む人を選ぶ作品でした。本作を手にとった方は結末のかなりダークな展開を覚悟してください。

一月十四日、真冬の風はまるで刃のようだった。鋭く。冷え冷えと乾き、夜空と都会の狭間を往来している。生物にも、そうでないなにかにも、風は等しく冷気を持ち運ぶ。

(P.12)

冒頭からデビュー作とは思えない文章なのですが、全然筆力が衰えません。結構硬質な文章なのでプロットを追うだけで進むわけでも無く集中して読みました。

ところが後半はあれ?って感じな部分が目に付くようになります

彼女が失踪した朝霧の忌み子――朝霧悠理であることはすぐにわかったよ。なぜかって?理由なんて必要ないだろ?彼女は、紛れもなく朝霧悠理なのだから

(P.234)
登場人物の一人のセリフなのです。別に論理の破綻をどうこう言っているのではなく、こういうことを言わせると読んでいて冷めてしまいます。

どうしてこんなことになったのか。未練たらしく渦巻き続けるその問いの答えは、世界が残酷だからだった。世界は残酷だ。そこにはなんの慈悲もなく感情もなく、どんな人間よりも残酷だった。

(P.310)
これも結末の重要なシーンの主人公の独白なのですが、彼が少女とともに四年間の放浪をするに至った蹉跌が十分伝わらないので、現在進行形で起こっていること=「決定的な対立」に対し「残酷」という言葉が浮いてしまってるように感じました。

敢えて言えば、本作は高い表現技法を駆使して〈中二病〉的な痛々しい世界観を表現しようとしてます。複雑な背景を物語のなかで自然に読者に説明してしまう技量は凄いと思いますが、そういう優れている面がある分、かえって致命的なテンポの悪さやキャラクターの単純さが気になったのも事実です。

ここが良かった

  • リアルでこなれた情景描写
  • 複雑な設定をさりげなく説明する巧の技
  • 抑制的ながら緻密な表現
  • ダークな世界観

ここは今ひとつ

  • 前半のテンポの悪さ
  • 設定について基本的なことが説明されない不自然さ(続編狙いにしても……)
  • 後半に至って歯止めが利かなくなる「あっははははははは(以下略)」といったセリフの寒さ
  • 結末まで読んで一気に押し寄せるしょんぼり感