野村美月『神宮の森卓球場でサヨナラ』

文学少女」シリーズも好調な野村美月の初期傑作「卓球場」シリーズ。完結編は「今日の日はさようなら」を歌ってしめます!

神宮の森卓球場でサヨナラ (ファミ通文庫)

神宮の森卓球場でサヨナラ (ファミ通文庫)

今回はいつものメンバーが「華代ちゃん」と別れなくてはならないという試練に立ち向かいます。ある意味一作目の変奏バージョンなのですが「完結編」ならこれもアリでしょう、朝香をはじめとする成長ぶりも感じられます。朝香と山田の恋のその後も楽しめます。結末は本作に相応しい清清しいもので感涙必至。

続編の読み方

本シリーズを最後まで読むきっかけとなった、第1作『赤城山卓球場に歌声は響く』(第1回エンターブレインえんため大賞の最優秀賞作品)はこのブログの前テーマ「50冊のライトノベルを50日で読む」の中の一作としてとりあげました。進行上「著者一人につき一作」というルールを設けたためシリーズものをとりあげる場合は一作目としてよりもひとつの長編作品としての完成度を意識して読みました。

今回のように続編を読む場合は、作品のマンネリ化はどの道避けられないので、どちらかというと登場人物(キャラクター)の魅力を意識して読んだほうが楽しめるような気がしています。このあたり同じシリーズものでも大河系の作品、たとえば前に取り上げた作品では「空ノ鐘が響く惑星で」とかの場合はちょっと異なると思いますが。

キャラクターの人数の多さと魅力

でシリーズ作品の場合キャラクターが多い方が後々お話は動かしやすいようです。もっとも一作目でキャラクターをじゃんじゃか出すとお話をつくる方も読むほうも大変になるのも確かで当初は主要なキャラクターだけにしておいて少しずつキャラを増やしていくなどの手法が通例のようです。

「卓球場」シリーズの場合、最初の講義室のシーンから主要キャラのうち7名が一気に登場し、冒頭で名前を列挙されたときには「おいおい、こんなに覚えられるのかよ!」と思ったりもしたのですが余計な心配でした。地の文無しの会話文だけで語り手の朝香を除く女子大生8名のうちの誰が話しているのかだいたいわかってしまいます、マジで。
「戯言」シリーズの玖渚友や「涼宮ハルヒ」シリーズの「鶴屋さん」のように個性的な話し方をするわけでは無いし、(「さすらいの女子大生」こと太宰を除けば)一見普通の女子大生ばかりなのでこのこと自体凄いことで、こうしたキャラクターの土台が本作の魅力の秘密なのかもしれません。

本作のビジュアル

何かのアンケートサイトで「イラストで期待した中身が異なってがっかりした作品」(サイトを失念したので正確ではないかもしれません)という類のランキングに本作がとりあげられていたのを見たことがあります。

本作のテーマを簡単に言うと

  • 女子大生
  • 友情
  • 歌(「ドナドナ」)
  • 卓球
  • 巫女さん
  • さすらいの女子大生と伝書鳩メロス君(笑)

ということになり、これっていったいどんな話?と思いますが、どうも巫女さんという部分に「反応」してしまうと肩透かしを食うのかなと思います、もちろんあくまで推測なんですが。
上記の要素でいうと「女子大生」と「(女の)友情」というテーマは男子向けのラノベでは正面きって扱われることは少ないので違和感を感じる場合もあるのかも知れません。

脈絡は無いですが、本作はアニメ化するとかなりおもしろいのではと思います。キャラクターもいわゆる萌え系の絵ではなくジブリ系のテイストなどだとかなりイケるのではないでしょうか。