山形石雄『戦う司書と雷(いかずち)の愚者』

近日、5作目が出る予定の「戦う司書」シリーズ2作目を読みました。武装司書達をはじめとするキャラクターの個性もさることながら、死者を記憶する『本』という設定がプロットに活かされているのが本作の魅力なのだと思います。


戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

トアット鉱山町の闘いから半年近くが経過したある日、武装司書の本拠地であるバントーラ図書館が仮面の男の襲撃を受けます、予知能力をもったマットアラストが迎え撃ちますが、襲撃者《怪物》は重傷を負いつつも逃げおおせます。その一ヶ月後、ある都市で失われた本の捜索を行っている見習い司書ノロティを館長代行ハミュッツ・メセタが訪れます。ハミュッツは彼女に謎めいた命令を与え再び雲隠れをします。命令はある男を守れというもので、その対象者は《怪物》によく似た能力をもったザトウという男でした。
前回生き残った武装司書達に加え、今回は新たに二名の武装司書ノロティとミンスが加わります、物語はもう一人の登場人物エンリケのキャラクターの回想と現在が絡まり意外な結末へと導かれます。
『本』という死者の記憶を封じ込め追体験できる不思議なアイテムのお陰でこの作品は過去と現在のリンクという道具立てを用いることができます。たとえば今回は前作で爆弾として死んだレーリアが登場し脇役と思いきやお話に重要な役割を果たします。
前作では視点の分割(コリオと武装司書たち)に過去(猫色の姫=シロン)が絡まり複雑なプロットだったのですが、今回は基本は過去(エンリケ)と現在の二本立てで、若干わかりやすいお話になっています、その代わり「ザトウは図書館を襲撃した《怪物》なのか?」というミステリ要素が加わり、結末が気になってページがどんどん進みました。
実はこの続編に手をつけるにあたり、本シリーズが異世界に舞台を置き換えただけのいわゆる「超常能力バトル」ものならここでやめようか…とも思っていたのですが、次巻もおおいに期待できそうで嬉しい誤算となりました。