仁木英之『僕僕先生』

僕僕先生

僕僕先生

退屈している暇はない! 不老不死にも飽きた辛辣な美少女仙人“僕僕”と、まだ生きる意味を知らない弱気なニート青年“王弁”が、5色の雲と駿馬を走らせ、天地陰陽を駆け抜ける!

第18回日本ファンタジーノベル大賞受賞作、素晴らしい!
読み終わったときにその余韻に浸り、一緒の時間を過ごした登場人物たちとの別れを惜しむような物語に出会う機会はそうそうあるものではない。傑作10点
ちなみに後半部は脳内で高速アニメ変換してた、もちろんジブリ系の画で(笑)*1


『僕僕先生』といまどきのファンタジー小説について思ったこと

  • もっともらしい世界観の構築だけでなく「キャラクター小説」に負けない個性が必要だよね
  • つうか読者が常に求めてやまない*2ツンデレがここにある!
  • パターンに乗っかるだけではもの足りない。登場人物以外は歴史小説っぽい絶妙なブレンド比率。
  • それでいてファンタジーの枠組を壊さないほどほどの舞台設定(道教・古代中国)

歴史パートと師弟(萌え)パートがかみあってないと感じた部分もあるが、唐帝国中期の蝗害に取り組む人々をとりあげた素材選択センスが良い*3。作品のテーマが「神話(古代)から人間の時代へ」ということならまさに人間が集団で自然の猛威を克服するというテーマにぴったりの素材だと思う。それでいて帝江や渾沌が登場する章のような世界の成り立ちに関わるスケールの大きな描写もあるから楽しめるのだと思う。

以上……、ほぼ絶賛状態。

以下は蛇足
最後のシーン、あまりにも清清しくってホロリときてしまった。いわゆるライトノベルではないので僕僕と王弁の「その後」が読めないのが残念だがきれいに完結しているのでこれで良いか(しぶしぶ)。

追記
王弁と僕僕の関係は「実年齢は聞かぬが花のヒロイン」(by 読丸さん、名言ですね)が出る作品として『狼と香辛料』のホロ&ロレンスとの比較は結構あるらしい。
野河は「驚異的な力を備えた少女に導かれ旅をし成長する青年」というモチーフとラストの泣ける再会シーンからダン・シモンズの『エンディミオン』2部作(アイネイアーエンディミオン)を連想した。

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エンディミオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

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エンディミオン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

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エンディミオンの覚醒〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

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エンディミオンの覚醒〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

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*1:日本ファンタジーノベル大賞は創設時に副賞として映像化されたそうで酒見賢一後宮小説』が『雲のように風のように』というタイトルでテレビ放映された

*2:一部誇張あり

*3:唐代の蝗害のエピソードはおそらくこれは史実と思うが確認していない