山形石雄『戦う司書と荒縄の姫君』

前作の衝撃の展開に続く「戦う司書」シリーズの6巻目。
6点、やや低いが理由は以下に。

人が死ぬとその体験は他人が「読む」ことのできる一冊の〈本〉となり世界の各所にある鉱山から発掘され、一つの図書館に集められ書庫に収められる。

基本となる設定は商業的ファンタジーというよりは児童文学*1に近い。作者はこのいわば「突飛な設定」を基盤に、これまでも、あるときはハードなミステリ(『神の石剣』)だったり、あるときは虚虚実実の駆け引きとパニックもの(『黒蟻の迷宮』)、または探索と逃亡劇(『追想の魔女』)と毎回異なる作風と予想のつかない展開で読者を飽きさせない。

本作は「戦争と復讐行」ということになろうか。性質の異なる二つないし複数のプロットが同時進行するパターンがみられる本シリーズだが今回を結末で「戦争」は終結し「復讐」は完遂と見事にまとまっている。
いつもながらのプロットの素晴らしさにも関わらず、惜しいのは武装司書と各国の軍隊との戦争描写が雑……と言うよりもぼくのリアリティの上限値を大きく超えてしまったからかもしれない。作中の描写で言うと艦船の主砲をねじ切ったり、投石器で高射砲を台座ごと引き抜き振り回すって……もう想像力が追いつかず、どんなファンタジーな力(笑)なんだよと若干白けてしまうのも正直なところ。
もともと本世界の「武装司書」というのは「魔術審議」と呼ばれる修行によって常人とは異なる力を会得した言わばアメコミ的な文脈でいうところの「超人」であるわけで、従来このシリーズを読むときにビジュアルは映画『X-MEN』風に脳内変換していたのだが、今回はどんな脳内CGでもちょっと演出不能素直に楽しめなかった。
本作で驚いたのは、無敵の館長代行ハミュッツ=メセタの心中。前作で一層冷酷無比な側面を明らかにしたと思えば、「倒されたい相手」として『恋する爆弾』ことコニオ=トニスに恋焦がれたり……、一筋縄ではいかないキャラクターです。
プロットを明かすと本作の面白さを大きく減ずるので結末には立ち入らないが本作をもって一応の区切りとなるが、シリーズは完結せずしばらく続くとのこと。次作でも予想の上をいく結末で驚かせて欲しい。

【追記】
ふと思ったが、本シリーズのライトノベルにおける特異な位置づけは少年コミックにおける荒木飛呂彦藤田和日郎の作品のそれに近いものがある。基本は大衆的エンターテインメントなのだが、それだけでない独特の個性がある点であり作品自体やテーマに共通点は無い。

*1:実際、本作中の固有名詞のいくつかは世界的に有名な児童文学作家ミヒャエル・エンデの作品へのオマージュが見てとれる