万城目学(まきめ・まなぶ)『鹿男あをによし』

鹿男あをによし

鹿男あをによし

奈良といえば?鹿?というありそうでなかったファンタジー風味の青春小説。
淡々と流れる日常と不思議が同居する作風は、舞台となる奈良がもつ独特の雰囲気と相まって素晴らしい体験を提供してくれる。読んだらまた奈良に行きたくなりました。
8点、9点でも良いがまだまだ期待できそうだから。

主人公は、所属する大学の助手との不仲が原因で休学扱で追い出され、教授の知人が経営する女子高の講師として奈良へと向かう。
終始主人公の「おれ」の視点で進むため読者は想像するしかないが、作品冒頭での教授の言葉「きみは神経衰弱だから。」(原文はカギ括弧無し)からは主人公が問題を抱えていること、それを自身では認められないことが推察される。
古臭い「神経衰弱」という言葉からも示唆されるように本作は夏目漱石の『坊ちゃん』の枠組を借り、奈良を舞台に淡々とした日常と「サンカク」と呼ばれる宝を巡る不思議な事件を通して主人公が癒され成長していく物語と読める。

ファンタジーといっても凝った複雑な設定が出てくるわけでも無く、青春小説といっても教師が弱小剣道部の顧問となって……というありがちな展開だけでもない、絶妙なブレンドは素晴らしい。エンターテインメントとしては登場人物(登場「鹿」その他も含む)が、どこにでもいる感じなのだが、その分奇抜な設定がすんなりと受け入れ易くなっている。

ちなみに一番好きなシーンはここ

鹿の背にまたがった堀田は、?目?を差し出し、得意そうな声で言った。
マイシカです、先生」

鹿にまたがった女子高生ってwww