新城カズマ『星の、バベル』

『サマー/タイム/トラベラー』の新城カズマのSF作品。物語もアイデアもキャラクターもいろいろ注文をつけたくなるところがあり惜しい。

〈上〉6点、〈下〉5点

南の島の独立国を舞台にテロによるパニックと地球外ウイルスの侵略が描かれる。主人公〈高遠健生〉は現地政府で少数民族との交渉仲介を務める30歳代の言語研究者。

物語とキャラクターについて
上巻が出て、下巻が刊行されるまで9ヶ月の期間をおいているのは執筆に時間がかかったのか〈ハルキ文庫〉の編集方針なのかわからないが、後半で「失速」している感は否めない。
謎めいたゲリラ指導者〈将軍〉が地球外生命体と文明の勃興について説明するシーンは饒舌過ぎてやや興醒め。この「解説」で高遠が古代遺跡で長時間足止めをくうため首都でのパニック描写は大統領秘書官のダニエル・イカウアを登場させ担当させているが、このあたりも個人的に唐突な感じがする。
メソネシア人の独自視点ということであれば、むしろ主人公の盟友チャーリィの回想を入れた方が良かったのでは。高遠が語る以上にこの重要人物の内面を読者は知ることができないし、実の妹〈ヴィナ〉がプロット上影が薄いのもそのあたりに起因しているのではないかと思う。

作中のアイデアについて
他の生命や自然物に寄生する地球外生命(?)というのはとくに目新しいテーマでは無く、「感染」や「情報生命」についてもSFに限らずサイエンスホラーなどエンタテイメントでもこの十数年はお定まりのテーマである。ただ無限に近い長さのフラーレン構造で記述される『バベルの図書館』(by ボルヘス)というアイデアはおもしろいと思う。
また、章題や作中ではいくつかの過去のSF作品に言及されたり、メソネシア共和国の首都アロウロの日常的な描写のリアリティは『サマー……』にも通じる作品の魅力になっている。