アンダカの怪造学Ⅰ

2005年初版、魔物の召還が存在する現代的な世界を舞台とする学園もの、現在もシリーズは継続中。

作者の名前は「あきら」と読む。高校在学中に書いた本作で第8回角川学園小説大賞・優秀賞を受賞。同時期にライトノベル系の文学賞を3つ受賞しており4冠ということである。
普段このジャンルを読まないぼくも「話題の高校生作家」という形容詞つきで奇妙なペンネームを記憶していた。

若くしてデビューを飾る作家は珍しくない。このジャンルでは短編小説の名手である乙一がいるし、芥川賞でも平野啓一郎綿矢りさ金原ひとみがニュースで話題となった。
こうした話題が先行するとどうしても色眼鏡でみてしまいがちである。実際本作も他出版社との同時2シリーズ開始ということでキャンペーンを行ったようだ。

前置きが長くなったが、本作の舞台となるのは「怪造学」という異界から魔物(作中は「怪造生物」と呼ばれる)を呼び出す一種の召還術が知られる以外はきわめて現代的な世界である。
主人公「空井伊依」(すかいいいより)をはじめ名前のみならずその行動や言動もユニークなキャラクターが学園ドラマの定型の枠組に配置されている。個人的にはいつもベッドで布団をかぶっておりほとんどしゃべらない主人公のルームメイト「片津理夢」(かたつりむ)が印象に残った。

作品のクライマックスは主人公が亡き父に伝授された呪文である強大な魔物を呼び出すシーンであるが、この呪文が「魔物が存在する場所までの異界の道順をイメージする」というもので、ぼくには目新しく感じた。まったく脈絡ないが数年前に「ユリイカ」で黒田硫黄が『西遊記』に登場する言葉の呪術的なカッコよさに触れたエッセイを思い出したりもした。

クライマックス後の一章で、次巻以降の伏線とばかりにいかにもなビジュアルの人物が登場するところは若干興ざめを感じなくもなかった。このあたりはシリーズを前提とする商業小説の宿命なのかもしれない(実際、少年コミックでは、こういう仕掛けはほとんど気になったことはない)。

ともあれ作者は意識的に「ライトノベル的な仕掛け」、といって悪ければ一般にライトノベルに期待される奇抜なイメージをこれでもかと演出している。一方でプロットや会話文は意外にオーソドックスでこうしたジャンルに不慣れな人間に対しても異世界体験ができるよう慎重な配慮がされているように感じた。

したがって本作は、手軽にライトノベルの現在を体験したい人にはお薦めの一作だと思う。

アンダカ』は現在シリーズ4作目が出ているようだが、ぼく自身は続刊よりもむしろこの作者の書いたほかの作品を読みたくなった。