中村航『ぐるぐる回るすべり台』
この人、なんとなく表紙のイメージから「セカチュー」とか市川拓司の一連の作品とか同じ立ち位置っぽくて敬遠していたのですが(いろいろとスイマセン)、読むと意外におもしろい。食わず嫌いはいけないなと思いました。
- 作者: 中村航
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/05/10
- メディア: 文庫
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題名はビートルズの楽曲「へルタースケルター」の和訳。原題のもつカッコよさと異なり日本語のちょっとトボけた語感をねらってますね。携帯サイトの書き込みやメールの本文が小道具として効果的に使われておりセンスが良いなあと感じました。
大学に退学届を出した「僕」がバイト先の塾でちょっと変わった少年を教えつつバンドのメンバーを集めようとする。何かが始まりそうな予感、でも結局「僕」にとっては始まらない……。
悲壮感や焦燥感のようなものは無く、むしろ達観したような清清しい結末が何か考えさせるものがあります。もちろんナンセンスなジョークとしても見ることができます。
カップリングしている作品「月に吠える」はちょっとヒネりが聞いています。企業の研修で出会った二人の男の軽妙な会話で進むのですが、製造現場でのQCサークルを扱っており、QCサークルの経験のある人にとってはお決まりのネタが登場しておもしろいです。
言ってから、すげえと、思った。
−−究極の効率化は自分の仕事を無くすこと。
哲郎は今、ハインリッヒもホウレンソウもヒヤリ・ハットもPDCAも、ぶっちぎりで超越したと思った。すげえ。
精密機械工場の派遣社員の立場で働く主人公が、自ら職場のQCサークルのリーダーとしてとりくむ課題の行き着く先を主任に説明するシーン。不況とか派遣社員の悲哀とか悲壮感とかそんなのが全然感じられないこの男らしさに元気が出ました。