桜庭一樹『GOSICK II その罪は名もなき』

20世紀の初頭を舞台にツンデレな金髪美少女探偵ヴィクトリカと日本からの留学生九条一弥がヨーロッパのとある国で巻き込まれる本格ミステリシリーズの長編2作目。

人里離れた中世さながらの暮らしを守る村でカーニバルのさなかに起こる怪事件、ヴィクトリカの母親の行方なども絡め次作以降への伏線も残すところがさすが。
本作のイメージはもろ『八つ墓村』だが、山陰の村を欧州の山深い里に置き換えた横溝正史的な状況の中で、ホームズ=ヴィクトリカとワトソン=一弥が謎に挑む。
前作のアガサ・クリスティ的隔離状況=幽霊船と同じく(となると次は「嵐の山荘」か?)古典的本格推理ものへのオマージュととれる娯楽作品だが、不思議と盛り上がりに欠ける。
解決編のカタルシスが弱いのが原因と思う。ヴィクトリカが瞬く間にトリックを見破ってしまいあとは「言語化」するだけからか、はたまた、名探偵と登場人物との間の知恵比べや駆け引きが些か淡泊なせいかもしれない。

もちろん読者は状況の中にいる登場人物とは別に著者の仕掛けるさまざまなヒントや叙述トリックに振り回されつつも謎の答えを探すのだが、語り手たる一弥とヴィクトリカのある種微笑ましいかけあいが楽しめないとおもしろさは半減するだろう。
そういう意味では本作は本格推理もののかたちをなぞったキャラクター小説なのだと思う。5点