野村美月『天使のベースボール2』

天使のベースボール〈2〉 (ファミ通文庫)

天使のベースボール〈2〉 (ファミ通文庫)

良家のお嬢様が不良でいっぱいの男子校の野球部の顧問兼監督になるが「生徒を野球で更正」という王道というよりむしろ「先生の貞操は如何!」なコメディの2作目。
今更だが、本シリーズのプロットは基本的にはハリウッド型コメディ映画のフォーマットであることに気づく。そう『天使にラブソングを2』(主演W・ゴールドバーグ)の本歌どり。楽しく読めるし野村ファンは必修だが5点

これまで読んだ野村の作品の中ではもっともライトノベル的と感じる。作中のあらゆるシーンが読者の前に同時進行していて(プロットがシンプルということでもある)、登場人物の動きが生き生きしている、ある意味アニメ的とも言える。
近作の『文学少女』シリーズは、幕間の謎めいた独白など小説的なギミックが凝らされており、随分と作風が異なっていると感じる。

基本的には他愛ない寸止めラブコメのフォーマットであるが、著者独特の過剰さ(いわゆるマニア指向というかオタク的過剰さとは明らかに異なる)がキャラクターに表われていて戸惑うところもある。
本作では野球部員の三角関係を思わせる描写があったり、やけにキャラの濃い対戦相手の監督とか。発展途上の作品といったらそれまでだがこれが野村美月たらしめている個性なのだろう。

野村がちょっと変わった−「萌え」などの時流とあまり関わりのない*1−キャラを描く個性的ライトノベル作家から、『文学少女』シリーズのような(まだ未完であるものの)評価の高いエンタータインメントを生み出せる作家に変化する過程で、本作をどう位置づけると良いだろうか。
ひとつは少年漫画的なエロへの挑戦があるだろう。意外なほど男の子の「やりたい」という感情をかなり肯定的に扱っている。
前作『卓球場』シリーズは思春期の男の子を喜ばせる性的な要素は全四作通じてせいぜい主人公の巫女装束からチラリと覗くパンチラくらいで、基本的にはセクシャルな要素は希薄。少女の友情や友達以上恋人未満のぎこちない関係を描く感動作だったとすれば、本作は意識的にそれと異なるベクトルの作品だと思う。
残念ながらそれほど人気を得ることができなかったのか2003年に刊行された本作以降は続編は発表されていない。野球部の行方はモチーフであり正直どうでもよいものの、太宰とまりあ、織川慶吾のその後の三角関係の行方をみたい気もするなあ。

天使にラブ・ソングを 2 [DVD]

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*1:その後『うさ恋。』シリーズで萌えに挑んでいるが未読