桜坂洋『よくわかる現代魔法 jini使い』

六本木のハイテク複合ビル*1を舞台に前作の魔法使いと1作目の敵役が手を組み「伝説の魔女復活」という大きな陰謀が明らかになる。
いつもの魔法使い3人も登場するが、ストーリーは無口系PCオタク少女の坂崎嘉穂と「jini使い」と呼ばれる家出少女を軸に展開する。物語よりもやたらと出てくる小ネタに反応してしまった。

「それとは別にjiniを操っている者もいる。この建造物は魔法使いだらけだな」
「なんです? それ」
「物体に宿る精霊だ。実際は、モノが持つ機能に魔法によって仮想的な人格を与えたものだ。貴様が組んだコードの影響で、建造物のjiniどもが活性化している」
「なかなか洒落た名前をつけるものですね」
jiniという呼び名は、プログラマーであるホアンにとって親しみがある単語だった。むかし、コンピュータの規格にそんな名前のものがあったように記憶している。

jini(ジニー)はサン・マイクロシステムズ社が1998年頃に発表した分散コンピューティングアーキテクチャで当時はネットワーク上のプリンタなどをドライバなどを意識せずに使える技術として紹介されたと記憶している。その後、マイクロソフトが同様のことを実現できるユニバーサル・プラグ・アンド・プレイ(UPnP)技術をWindowsXPに載せてしまったせいかPC上ではあまり普及していない。

>いるけど。あなた、だれ?
>わたしは『おっとテレポーター』
>はあ?
>盗賊が失敗したとき、よくそんな風に言う

『おっとテレポーター』こと嘉穂はこのとき六本木の複合ビルの防火扉の間に閉じ込められている。これはコンピュータRPGWizardry』の有名な宝箱のトラップ「テレポーター」の発動時の表示、その結果である状態「かべのなかにいる」から。

>せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ
「なんで赤? それになんで急に一人称が俺なの?」
>わからないならわからないでいい

こんどはセガサターンデスクリムゾン』の名セリフ。

結果的には渋谷を舞台とする2作目が番外編的な扱いとなり後は完結編に向けて一気に展開する構成となっている。6点

*1:本作の舞台は作中では単に「六本木の複合ビル」と描写されるが、カバーの作品紹介でははっきり「六本木ヒルズ」と書かれていたりする