ジャック・ヴァンス『竜を駆る種族』

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

たまにはSFを。
1976年に翻訳出版された作品の新装版。字が大きくなっているのと一部訳を改めているそう。いまでは古典に属するだろうが、1963年にヒューゴー賞短編部門を受賞したこの作品のどこが当時受け入れられたかを考えてみると

  • 一見ファンタジーのようであるが実はSF的な設定がある
  • 種明かしや謎の解明がプロットの骨子ではない、終盤までにこの世界の全貌は読者の前にほぼ明らかにされるが、それは作品世界の人物の運命になんら作用しない
  • 登場人物(=ファンタジー的世界の住人)の世界観で物語が描写される

SFは50年代から60年代にかけて作品のモチーフとなるアイデアを爆発的に進化させてきたが、本作は科学的な謎解きや未来社会のシミュレーションといったある種「SFの作劇上の縛り」から自由になった最初期の作品のひとつかも知れない。
再び受賞に話を戻すと同年の長編部門を受賞したのが、ディックの時間改変SF『高い城の男』というのが当時のSFというジャンルの多様性をあらわしているようで興味深い。