彩峰優『サージャント・グリズリー』

第9回えんため大賞・特別賞受賞作品
今年のえんため大賞作品の中では一番期待していたのですが、序盤はともかく後半が……。

サージャント・グリズリー (ファミ通文庫)

サージャント・グリズリー (ファミ通文庫)

彼女も友達もゼロのいじめられっ子少年の前に突如あらわれた転校生の女生徒はハイイログマのぬいぐるみ(顔だけ)に軍服姿の「グリズリー・軍曹」だった。
周囲は可愛い、綺麗、クールビューティと誉めそやすが、どう見てもがっちり体型を軍服に包んだ熊頭で野太いおっさん声で……

冒頭は、どこからツッコめばよいのかという状態で、作品への期待はいやが上にも高まるのですが。物語が進むにつれ「軍曹」の妹の「少佐」(頭部は熊、加虐嗜好、凶暴)やら頭が鮭の「サーモン・閣下」やらなんだか濃いキャラが続々と登場し、「冒頭のツカミ」の衝撃が落ち着く中盤あたりからもう「おなかいっぱい状態」で、動きが鈍い物語が失速してきます。
主人公がさる財閥の御曹司で、裏世界の支配権を巡るトラブルに巻き込まれ政略結婚を迫られるという、クライマックスの展開に至ってはとってつけた感がどうしても拭えず置いてきぼりです。

ある種「ネタ」的な強烈なキャラをこれでもかと出してもお話としてのおもしろさに一向につながってこないのが残念でした。
主人公「準」のせまいアパートの一室に全キャラ8人が居候としてひしめきあう姿がなんとなく本作の問題点を暗示しているような気がしたり。

いちおう言っておくと、小ネタ的には結構おもしろいところは多いのですサーファーならぬ「サーマー」とかね。
とくに三章のここで虚をつかれ爆笑しました。

大家さんが下から何やら見上げて
「少年、きっついお嬢さんも堪らんじゃろ?」
「正直、ちょっと嬉しかったです……」
マゾヒストの誕生だった。

ツンデレどころじゃない加虐嗜好をもつ美少女青井美月に「豚」呼ばわりされ蹴りを入れられた主人公に、いきなり現れた大家さんの一言なんですが、いっそこの路線でいけばどうでしょ?