古橋秀之『ある日、爆弾がおちてきて』(21/50)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

21冊目は古橋秀之。デビュー作は『ブラックロッド』という伝記アクションで第2回電撃ゲーム小説大賞を受賞しています。ライトノベルではベテランといえると思いますが、この短編集も巧いです、読ませます。

追記(2006/12/17)

本作は、『このライトノベルがすごい!2007』で年間ベスト9位に選ばれています*1。ランキングにシリーズものが大半を占める中で、短編集がランクインするというのはそれだけ多くの人にこの短い作品集が評価されたのではないかと思います。

ある日、爆弾がおちてきて

表題作。予備校に通う主人公のもとにあらわれた高校時代のクラスメートにそっくりの女の子。彼女は自分は爆弾であり、胸に埋め込まれた時計の文字盤を見せながら「セーシュン的なドキドキ感」が高まると針が進み12時になると爆発するという。自ら「ピカリちゃん」と名乗る彼女は高校時代に一度だけ話したことのある、あの身体の弱い広崎ひかるなのか?
最後はちょっとしんみりとした結末なのですが、「大人になりたくない」少年のオーソドックスな成長物語としても読めます。

おおきくなあれ

記憶の遡行をともなう病気に罹った女の子をともない幼馴染みの主人公が学校から家に帰るまでを描く。
この病気、難病ではなく3日で治る風邪のように扱われているのでお話は明るいトーンで進みます。主人公よりも30センチも身長が高いヒロインが次第に幼くなっていくギャップと、彼女のちょっと複雑な家庭環境の説明に主人公が難儀するという設定がおもしろいです。

恋する死者の夜

死者が突然蘇り、生前の記憶をもとに生前と同じ行為を繰り返しようになった世界。生者は次第に増える死者に圧倒され、意思を持たない死者が繰り返す行為でどうにか社会が維持されている。主人公は遊園地でのデート中に死んだ女の子と何度目になるかもわからない遊園地でのデートを繰り返す。
死を扱うという点では1話に通じるものがあるのですが、既に決定してしまった過去を延々と繰り返すというループに陥った主人公の深い絶望に言葉を失います。

トトカミじゃ

一転して明るいメルヘンチックな話。図書館の神様である女の子とその世話係に任命された主人公が過ごす日々。
この本の中ではいまどきのライトノベルに最も近いお話ですね。背が小さく、古めかしい言葉で話し、少女小説をこよなく愛する「トトカミさま」はこのままシリーズ化してもいいくらい魅力的です。

出席番号0番

憑依性人格である日渡千晶は日替わりでクラスの誰かの身体を借りて存在する出席番号0番の生徒だ。
次々となり変っていく日渡のキャラクターがクラスの賑やかなお話の推進力となっておもしろいです。学園シリーズものから短いエピソードを切り出してきたような贅沢なテイストがあります。

三時間目のまどか

少年が目にした窓に映る不思議な少女は女の子はちょうど6年前の同じ高校に在籍したという。
教室で手紙やメールをこっそりまわすようなおもしろさを感じました。作中で手話が効果的に使われます。

むかし、爆弾がおちてきて

60年前に戦争で落ちてきた新型爆弾で、爆心地の半径1メートルの空間に閉じ込められ60億分の一という途方も無い時間の流れを生きる少女と少年の物語。
タイトルは第1話と呼応するような感じですが、全体にノスタルジックなテイストの作品です。

作者のあとがきによると「“フツーの男の子”と“フシギな女の子”のボーイ・ミーツ・ガール」という大枠に、異なる時間の流れを共通テーマにお話づくりをしているそうです。

7本の短編中、どの作品が一番かというとどれも個性に富んでいて甲乙つけがたいですが、アイデアでは「大きくなあれ」と「出席番号0番」を、キャラクターの魅力では「トトカミじゃ」を、感動という意味では「むかし、爆弾がおちてきて」となります。

*1:ちなみに同点9位は『空ノ鐘が響く惑星で』でした